山本武利を代表とするわれわれ研究グループは日本学術振興会の科学研究費を得て、プランゲ文庫所蔵雑誌のデータベース作成に
2000年から取りかかり、それを2004年に完成しました。さらに2006年から5年間、さらに科学研究費を得て新聞データベースを作成に
とりかかり2012年3月に完成しました。 雑誌1,964,933件、新聞1,284,403件、計3,248,976件の膨大なものです。
「占領期新聞・雑誌情報データベース」として2002年から公開を始め、利用者とのウェッブ上のコミュニティを形成してきました。
そのメンバーは2012年9月2日現在5,872名(うちわれわれからの通信希望者は4,330名)を数えています。われわれの日常の活動や
不特定の利用者相互のネットワークを通じての情報交換によって、最近のデータベースへの新規登録者は顕著に増加しています。
また国立国会図書館やメリーランド大学図書館のホームページではこのデータベースとアドレスを紹介し、プランゲ文庫の利用者に
その活用を奨励してくれています。したがって外国人とくにアメリカ東部海岸の大学研究者のアクセスが目立ちます。
占領期という特定の時期のさまざまなテーマを追究する仲間集団のウェッブ上のこれほどの規模と密度、国際的広がりをもつ研究者
コミュニティは他に類がないと自負しています。
平成24年(2012年)9月 山本 武利
最新の「20世紀メディア情報データベース」のご利用は こちら
プランゲ文庫に関する各種ご案内は こちら
山本武利
大学院時代での新聞、雑誌記事との格闘の過程で、私は文献探索ノウハウを自分なりに開発しようとした。 多少なりとも資料価値を
敏速に判断し、要点をまとめる職人的カンは養われたと自負している。 だがそれはアナログ時代のカンかもしれない。大量の資料を
瞬時に検索するデジタル時代には無用に近くなったかもしれない。 それを痛感したのは、2000年に『紙芝居:街角のメディア』
(吉川弘文館)を執筆したときである。「紙芝居」というキーワードでプランゲ文庫の雑誌マイクロ・フィッシュにあたったが、
膨大すぎて私のカンは働かない。『紙芝居』という雑誌は同文庫編の活字目録で検索できたが、その他の雑誌にでているはずの関連
記事にはとんとめぐり会わなかった(雑誌データベースでは347件)。
私は1996年から2年間、ワシントンDCに滞在していたとき、議会図書館でデジタル化事業が大規模に進展していることを垣間見ていた。
プランゲ文庫の雑誌マイクロ・フィッシュからの紙芝居記事の探索には、デジタル目録が不可欠と思った。その頃日本学術振興会の
科学研究費補助金に研究公開促進費という項目があり、そこではデータベース作成への補助金が出ることを耳にした。 私は2000年度に
「プランゲ文庫雑誌記事情報データベース」というタイトルで科研費に応募した。 別の種類の科研費は何度か授与されたことはあっ
たが、データベース作成は初めてである。 実の所アナログとデジタルの区別さえ知らずに書類つくりを行った。 学振の窓口で大幅な
書き直しをさせられ、手書きの修正箇所が露骨に出た汚い書類がなんとか受理された。 したがって一遍でパスするとは予想していな
かった。 そこであわててメリーランド大学プランゲ文庫へ協力要請に行ったところ、「プランゲ文庫」というブランドは長年、
同大学が構築したものであるため、“使用まかりならぬ”と厳しく通告された。 やむなく科研費タイトルから「プランゲ文庫」の6字
を削除し、それに代えて「占領期」を入れた変更許可を学振へ申請すると、このような大型プロジェクトの途中タイトル変更は前例が
ないと言われつつ許可された。
ともかく申請に協力してくれた友人の研究者たちと戦略会議を急遽開いた。 全雑誌、全号の表紙・目次等から著者名、記事・論文
タイトル名、本文小見出し、分類番号、検閲に関する情報、巻号、発行所、発行年月日、発行地などの情報を盛りだくさん入れること
になった。 大宅壮一文庫に相談に行くと、その予算規模ではいいものは出来ないだろうと婉曲に言われた。 そこで会議でいろいろ
知恵を出しあったが、そこに出た“小見出しを入れるのがよい”という土屋礼子教授(当時大阪市立大学)の提案に飛びついたら、
件数の多さに比べて少ない科研費配分額をカバーし、わがデータベースはヒット率を高めることとなった。
2004年に雑誌データベースが完了した。1年の準備期間を経て、2006年の科研費にプランゲ文庫の新聞データベース作成の申請を
したところ、幸い採用された。新聞には雑誌のような論文名、執筆者名の目次がないため、検索機能を格段に向上させるため独自の
工夫を講じた。 見出し、記事冒頭100字(リード部分がある場合はリードのみ)、人名、国名、地名、写真の有無(ある場合はキャ
プション)、掲載紙名、掲載日、発行形態、広告(広告主、商品名)などを入力した。広告のデータベースは他に類例がない。
新聞データベースの入力作業もほぼ順調に進展した。ところが好事魔多し。われわれのデータベース科研費は毎年申請する種類の
ものであった。新聞データベースが3年目の2008年度に不採択となった。不採択の理由は明示されなかったが、推測するに、3年目の
申請の際、無断で作成期間を5年から7年に変更したためであろう。もとの5年間での完了に申請し直したところ2009年度から復活した。
それでも新聞、雑誌データベースともに他のデータベースに比べ予算が優遇されていたことで学振に感謝せねばならない。 確かめた
わけではないが、3億8千万円余という配分額はここ10年で科研費最大と思う。 しかし件数が300万を越えたため、1件当たり120円程度
である。 これはわれわれのプロジェクト運営には厳しい予算配分を迫るものであった。 業者泣かせの単価を飲んでいただいたのは
紀伊國屋書店と東京印書館であった。
メリーランド大学、国立国会図書館はプランゲ文庫のマイクロ化という大事業を遂行しつつある。 利用者側にたってわれわれは新聞
・雑誌のデータベース作成を行ってきた。その12年間に両機関から受けた恩恵は大きい。 この場で感謝したい。
2002年11月に占領期雑誌情報データベースをウェブ上に公開してから10年、そして2007年5月に占領期新聞情報データベースを追加
公開してから5年が経過した。 2002年から現在までの当データベース登録者は5,600名になった。最近は1か月で50~60名の新規登録
者数となっている。 また一人あたりの利用回数も飛躍的に増加している。
私どもはなるべく使いやすいデータベースにするように2001年に20世紀メディア研究所を立ち上げ、占領期雑誌研究会などを継続的
に開催している。 2013年3月で公開研究会は74回を数えた。こうした研究による成果を日々のデータベース作成に反映させた。
それだけでなく、データベースを使った研究を自ら意欲的に行い、『Intelligence』(文生書院)や『占領期文化をひらく』
(早稲田大学出版部)などの出版物で発表してきた。 さらに2008年から2010年にかけ『占領期雑誌資料大系』(大衆文化編、文学編、
各5巻、岩波書店)を刊行した。 占領期新聞・雑誌情報データベースは、東北・北海道地区の新聞データの最終投入で、2012年5月に
完了することになった。 公開にあたってはサーバー維持費や人件費などで政治経済学術院はじめ早稲田大学の各箇所から援助を得て
来た。 しかし今後の安定的運営には、利用者にいくばくかの負担をいただく必要が出て来た。 本データベースの運営主体をこれまで
担当してきた20世紀メディア研究所から、2012年1月に設立したNPO法人インテリジェンス研究所へと体制変更したのも、利用者への
一層のサービスの拡大のために、幅広い収入を図り、利用者の負担を減らすねらいがあるからである。
平成25年(2013年)3月
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