テーマD-02 2.野球の科学

 1.はじめに

野球の科学
野球は、日本の最も愛されているスポーツ種目の代表的なものである。 各都市に定着したプロ野球、都市対抗野球、春夏テレビで賑わう高校野球、地域で 楽しまれている言わば草野球、子供達とその親が情熱を燃やすリトルリーグ、など完全に日本の社会に定着した素晴らしいスポーツ種目である。  この「野球」について科学の目を向けてみよう。 私は、水泳連盟での世界との戦いの最中に、ある県の高校の野球部の強化のお手伝いをしたことがある。  県立のこの高校は大学進学率が県内トップで、受験校として著名である。 当然入試の倍率も極めて高い。 従って、部活で野球部に入部した生徒の ほとんどが中学生の頃は受験勉強に明け暮れておりほぼ素人といって過言がない状況であった。 部活の練習も勉学中心のカリキュラムに制限を受けて ままならない状態であった。 当然、甲子園の県予選でも、毎年出ると負けを繰り返していた。 しかし、選手としての人材的には優れた生徒も多くいた。  特に当時3年のピッチャーC君は、身長178cmで骨格もしっかりした運動能力の優れた逸材であった。 この高校は、生徒の部活は2年生までで3年生は 受験勉強に徹するというのが通例なのだが、C君本人は夏の甲子園予選まではぜひやりたいという強い希望があった。 野球部の3年生仲間と相談し、 「7月までの夏の甲子園県予選まではぜひ部活をやらせて欲しい。 その後夏休みは真剣に受験勉強に取り組む。」と熱心に監督である顧問の先生と交渉を 繰り返した。 その情熱を認めた学校側は、特例として夏休みの重点受験勉強を条件に部活を認めたようである。 私も参加して、4.5.6の3ヶ月間は 真剣に練習に励んだ。 私にとって極めて印象に残る感動的な高校生との時間であった。 この年、今まで「出ると負け」の弱小高校チームが、強豪校の 多いこの県でなんとベスト8にまで勝ち進んだのである。 ベスト4進出の直前で負けたとき大学進学受験を控えたこの生徒たちが泣いた。 私も泣いた。  悔しいけど何故か清らかな涙であった。 詳しくはエピソードⅣとして後に述べる。
この受験校の甲子園を目指した野球の科学的アプローチを解説してみる。 解説は、次の項目で行う。
  第1章 剛速球で投げるための科学
      その1、その2
  第2章 守備力アップへの科学的提言
  第3章 バッティングの科学(ヒット率向上の科学)
  第4章 エピソードⅣ

 第1章 野球ピッチングを考えてみる。(その1)

1.投球動作を調べる。
野球のピッチングは、投球動作開始から投げ終わりまで約0.3秒間で行われるのが一般的である。

図1は、C君の投球動作の連続図映像である。 ビデオの映像を1コマずつ取り出したもので、0.0333秒間隔になっている。 コマ落しになっている ので、残念ながらボールのリリース瞬間が写っていない。 便宜上、投げ終わり状態のフォロースルーにあたるコマを0.0秒として、その0.3秒前から の連続映像である。 紙面の関係で0.3秒前、0.2秒前までは0.1秒間隔で表示した。 この投球動作の映像で解析を行った。 判明した状況をC君 に伝え、自身で動作の改良に取り組んでもらった。 数週間ごとに状況を計測し、次の課題を見つけるという方法で強化に取り組んだ。

2.スティック図を作る。
動作の解析は身体の動作による変位を明確にするため、各部の関節を結んだスティック図を作る。 身体動作の状況が一目でわかり、寸法などの測定が正確 にできるからである。 図2は、実際の高校野球の選手のピッチング動作の連続写真から、解析用にスティック図を作る様子を示したものである。

分かりやすいように腕と手は青線、両肩を結んだ線はピンク線、右足と胴体・首を結んだ線は黒線、左足は赤線で示した。 スティック図は、動作解析には 必需のものである。 寸法の確定は、図3のように、選手の映像の身長で行う。 直立でなくとも身長がわかる映像を使う。 赤矢印線の長さがC君の身長 178cmに相当することになる。

3.投球動作の分析 図4は、ピッチャーC君のビデオ映像のコマ送りから作成したスティック図で、リリース直前とその前後のコマである。 この図をみると選手の一連の 動作の状況が写真より良くわかると思う。 動作の解析はスティック図で行う。

投球動作をよく考えてみよう。 図5のように、ボールを前に投げるということは手で前にボールを移動させて(押して)放り出す(リリース)ということ である。 つまり、投球動作とは静止しているボールを油断するとバッターが空振りしてしまうほどの高速度に加速して放り出すという動作である。 図6 に示したように、白球リリース時の前後のコマのスティック図を重ねてみるとボールが手によって運ばれる状況がよくわかる。 ボールは手を離れるともう 加速は行われないので、投球速度はリリース瞬間の手先の移動速度で決まるということになる。

図6を注意深くみると、4つのボール加速に影響する前への移動が読みとれる。 まず図7のように、首と胴体を結ぶ黒線の首の部分が、右足の踏み込みで 勢いよく前への移動している。 首部が一番進んでいる。 2つ目は図9のように、ピンク線の首に支えられている肩部は、投げる前の姿勢で後方へひかれ ていた右肩が投球動作によって前へせり出して(ローテーションして)移動している。 さらに、その右肩に乗っている青線の手(上腕と腕)が投げる動作 によってボールを前へと進めている。 図9のように手の動作では、上腕が前に旋回して肘が勢いよく前に出ている。 4つ目は、図10のように、腕の 旋回によって手先が急速度を得て前へボールを運んでいる。 首・右肩・手の動作が並行して行われている。

このようにリリース瞬間に得られた速度というのは、投球動作による並行して行われる身体の各部の動作による前への進行加速の合計で決まっているので ある。

4.並行動作の加速分の計測
投球時の並行各動作の加速分について考える。
1)右ピッチャーの左足踏み込み動作による胴体の前進分
図7は、右ピッチャーの右足踏み込み動作による胴体の前進分はリリース直前の画像とその1コマ前の画像を重ねて表示したものである。 右足は移動がない ので足先を合わせる。 図9のように、人間の身体は手の投球動作を支える両肩の中心部が首元になっているので、首の移動距離を胴体の前進分として計測 する。 C君の移動量は33.2cmであった。 これが1コマの所要時間(0.0333秒)の動作なので、移動速度は35.8km/時となった。
2)右肩が投球動作により前へせり出し(ローテーション)による加速分
図10は、投球前に後方へひかれていた右肩が投球動作により前へせり出して行く状況(ローテーション)で、同じくリリース直前と1コマ前を重ねて計測 する。 見える肩の移動距離は42.2cmであったので、肩の移動速度は45.6km/時であった。 肩部は首に乗っているので、首(胴体)の移動速度を 差し引いたものが肩ローテーションの加速分になる。 C君の計測値は9.8km/時であった。
3)腕の回転による加速分
図11の右列が腕の旋回角の計測法である。 リリース直前のコマと1つ前のコマのスティック図の腕と上腕のなす角度をそれぞれ計測する。 C君の場合、 リリース直前のコマでは33°、その前のコマでは111°であった。 すなわち、この1コマ間に111°であった腕と上腕とのなす角が78°変わった ことになる。 これが腕の旋回角となる。

図12のように、旋回角から、肘から手のひら中央までの長さを半径Rとして持ったボールの移動距離が算出される。 上腕旋回の場合は、肩から肘までの 寸法が半径Rとして移動距離は円周に沿って、2πR×θ/360° となる。 ピッチャーC君は身長178cm、肘から手のひら中央までは39cmであった。  彼の腕旋回角は78°なので 2×3.14×39cm×78°/360°= 53.1cmとなった。 持ったボールが0.033秒間に移動させられることに なるので、速度は57.3km/時となる。 これが腕旋回による加速分となる。

2-4.4月時点の高校生ピッチャーのデータ
A県のB高校の4月から6月までの甲子園強化の練習データを参考にしてみる。 3年生ピッチャーC君は身長178cm、肩から肘の寸法は約40cm、肘から手のひら までは39cmであった。 4月の訓練開始時は、球速の平均が125km/時のひ弱なピッチャーだったが、3ヶ月後にはチャンピオンデータで139km/時になった。  仕組みがわかって訓練すると短期間で成長するものだと感心した。

表1は彼の各動作による加速状況の計測値である。このデータを分析してみよう。 このデータは、彼の平均投球速度125km/時であったので、加速分合計が 122.9km/時は納得がいく数値である。 この表から見える動作による加速分の割合が極めて興味深い。
1)足踏み出しによる胴体移動分の加速は、全体の29%も占めていた。 たった1歩の踏み出し動作で、球速の29%にもなる加速をしていたのである。  陸上競技の男子100競走では世界記録が9秒そこそこである。 仮に100mが日本記録に近い10秒0とすると、時速は36km/時になる。 彼の 踏み出し速度とほぼ同等である。 そういえばバレーボールのサーブやバックアタックは、後ろから走ってきて打つので普通のサーブやアタックよりも ボールが速く、相手を翻弄するので実戦でよく使われる。 身体移動で、加速分を増やし、打球速を高めていたのである。納得である。
2)肩のローテーションの影響は少ない。後に解説するが可動域の制限のためである。
3)腕を振り回しての投球で、上腕部の旋回による肘の全身の影響は、15%位であった。 大きな腕の筋力を最大限使える動作なので加速分も多いと 思われるが、これも可動域の制限があって15%程度になってしまう。
4)47.1%も占めているのが肘の旋回によるものである。実際にピッチングにおける肘の旋回は最も重要な技術である。 後に詳しく解説する。

5.その2に続く
実はこの4つの並行動作に加えて、5)として「スナップを効かせた投球」という動作が挙げられる。 このデータを元にC君は科学的挑戦を行った。  その2では、その挑戦を解説する。 平均球速125km/時のひ弱な高校生選手が、140km/時弱の球を投げられるように成長したこの記録は、160km/時 を超える世界のトップピッチャーの参考にはならないと思う方々も多いと思うが、投球技術の本質を突いたこのアプローチは見逃せないものと考える。

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 第1章 野球ピッチングを考えてみる。(その2)

1.高校生ピッチャーの挑戦
当時3年のピッチャーC君は、身長178cmで骨格もしっかりした運動能力の優れた逸材であった。 その時点の彼の平均投球速度125km/時であった。  表1は、C君そのときの投球データである。

陸上競技の100mが10秒00の速さは時速で36km/時に相当する。 0.1秒間に1mの移動距離である。ビデオの1コマ0.0333秒間には 30cmに相当する。 それぞれの動作の移動距離データから、動作の速さのレベルがわかると思う。 ピッチャーの急速を決めるのは、1)~5)の 5つの並行動作ということである。
表から、並行的に行われる動作によって加速分の割合が異なることがわかる。 ピッチャーの球速アップのアプローチに極めて重大なヒントが隠れている のである。

2.手首のスナップ
表1には、5)手首のスナップという項をいれた。 「スナップを効かせた投球」ということを考えてみる。 テレビでの著名ピッチャーやコーチ・解説者 からよく「スナップを効かせた投球」という言葉を聞く。

図1に、そのまま投げる場合と手首を使う(スナップを効かせる)投球を示した。 手首を使う投球とは、投げる前に手首を後ろに反らせて、投げる瞬間に 手首を前にかしげるという方法である。 図2を見ると、そのままの場合、ボールの移動は肘の旋回だけで行われて手首での加速はない。 手首を使うと、 当初後ろに反らせた手がリリース時には前にかしげるのでその分ボールが前に進み加速が行われる。 手を後ろに反らせた時と前にかしげた時でボールに 位置は、身長170cmの筆者の手で測ると約13cmであった。 これをリリースの瞬間に1コマ位の時間に行うことができれば、加速分は14km/時にも なる。 C君は手首を全く活用していなかった。 平均投球速度125km/時のC君が彼の大きな手の手首を使うと球速は多分140km以上となり、速球高校生 ピッチャーに変身できることになる。

3.可動域という概念
ここで重要なこととして、可動範囲という概念をあげたい。 球を前に運ぶ速度を速くするということは、動く幅を大きくすることと動作を速く行うこと である。 速く行うのは訓練で筋力をつけることでできる。 動く幅を大きくするということは、身体の各部の可動範囲をめいっぱい動かせて動作すること で対応する。 そうなると身体各部の動く範囲が加速の大きさを決めることになる。 身体各部の動きの可能範囲が重要なのである。 そして、可動範囲 一杯の大きな動作をフル活用して大きな加速を得るという戦略が可能となる。 ここでピッチャーの投球速度を決める5つの動作について考えてよう。
1)足踏み出しによる胴体移動分の加速
足踏み出しによる胴体移動分の加速は、当初のC君の場合全体の29%も占めている。 たった1歩の踏み出し動作で、球速の3分に1近い加速をしている のである。 一般的に投手の動作は、この踏み出し1歩をなるべく大きな歩幅で力いっぱい踏み込んでおこなうのがいいと言われている。 可動範囲は 歩幅ということになるが、歩幅は選手の身体固有の長さである。 選手はその範囲で精一杯踏み込んでいるので、可動範囲を最大限活用していることに なる。 さらに脚力を効かせて動作の速さを確保している。 ひ弱なピッチャーであったC君でも35.8㎞/時もの加速をしている。 従来からのピッチャー 育成でこの一歩の踏み込みの重要性がどのくらい認識されていたが知らないが、結構しっかりと実行されていたと思われる。
2)肩のローテイション
肩の影響は少ない。 可動域の制限のためである。 図3は、投球動作を上から見た模式図で、頭は黒、両肩は赤線、手は黄土色で描いている。 ①は、 投げる動作前の構え、②はリリース瞬間、③はフォロースルーである。 左側の枠内のように、①と②を胴体(頭や首)で重ねた図を見てみると、構えの ときでしっかり横を向いていても、リリース瞬間に肩は正面向きなので、可動域はせいぜい90°未満である。 しかも、肩は胴体の一部で手の部分を 背負っているので、首を中心の旋回(ローテイション)は、腕の旋回のように急速にはできない。 緩慢な動作となる。 この2点のため、肩の ローテイションによる前方向への加速分は小さくなってしまう。 C君の測定値でも8%しかなかった。 さらに思考を進めると、あまり肩を大きく動かす と、手の位置が大きく変動するので投球コースのコントロールが難しくなってしまう恐れがあるので、好ましくない。 この分での加速量は少なくても しかたないと考えられる。

3)上腕の旋回による肘の移動
C君の場合、腕を振り回しての投球で、上腕部の旋回による肘の前進分は投球速度の15.8%であった。 上腕の大きな筋力を最大限使える動作なので加速分も 多いと思われるが、これも可動域の制限があって15%程度になってしまう。

自分でやってみるとよくわかるが、上腕部を上にあげて後ろに反らせても、自分の身体構造上そんなには後ろにそらせられない。 ボールのリリース瞬間は 直上あたりなので、投球動作での上腕の旋回範囲は限られてしまう。 狭い可動範囲でも15%もの加速を行えるのは、腕の強い筋肉のおかげであろう。  この動作での加速分を増やすのには限界だと思われる。
4)腕の旋回による加速
C君のデータで47.1%も占めているのが肘の旋回によるものである。 ピッチングにおける肘の旋回は最も重要な技術である。 図5に腕の可動範囲を 示したが、投球前の構えで肘を高くすると、可動範囲を180°近くも取れることがわかる。 前に身体の各部の可動範囲をめいっぱい動かせて動作する ことで加速分を大きくすることを述べた。 腕の旋回角をおおきくすることは、この分での加速がおおきいことになる。 重要なことは肘を高く手先を低く し構えることである。 図6.は、肘を高く上げた場合の腕の旋回角が大きくなることを示した模式図である。 競泳界では、肘を高くして水を「かく」 動作を「ハイエルボウ」と呼ぶ。 この状態で動作すると、水を効率よく後ろに押せるからである。 野球のピッチングでも、東急速度を上げるには、 ハイエルボウの構えがいいということになる。 図7は、C君の投球動作の構えの状態の映像と、プロ野球A球団のB投手の放送映像のリリース瞬間より1コマ 前の構え時の映像である。 この時電光掲示板に出た投球速度は162㎞/時であった。

C君の場合は肘の低い構えであったのでこの時の腕の旋回角は78°であった。 B投手の放送映像からは、腕旋回角や加速分は計測できないが、 ハイエルボウ状態で投げている状況がよくわかる。 もしC君がハイエルボウにして旋回角を30°大きくできると、腕の旋回による加速分が約73㎞/時と なり、投球速度が140㎞/時を超えることになる。 スナップをきかせるのを加えると150㎞/時以上にもなる予測ができる。

4.ヌンチャク効果
例は悪いが、ヌンチャクという武器がある。 よくアジア系の暴力団員などが振り回している武器である。 図8に、武器としての破壊力を示した。

ヌンチャクは2~30cm程の金属製のバーをチェーンで繋いだものである。 握りバーを持って振り回すと、握りバーの攻撃の最終段階の振り回しが 止まりかかった時に攻撃バーが自身で急速旋回して相手に激突する。 攻撃バーは手による振り回し旋回による速度に加えて、自身の旋回加速が追加されて 衝撃力が大きく増し、強力な激突が行われる。 単独棒での打撃より自分旋回の加速が加わっているので大きな衝撃力となる。 握りバーの最終段階に持つ 手を上に上げるか手前に引くとさらに攻撃バーの旋回が速くなり激突力が増す。 ヌンチャクの破壊力増大のブラックテクニックである。

図9は、そのヌンチャクと同じ状況で投球動作の腕回転が実行されていることを示したものである。 ヌンチャクは、振り回しの最終段階の手の動きの停止 で攻撃バーが旋回を始めると、攻撃バー自身の旋回が短時間になるので、その加速力が増大して追加される。 腕がヌンチャクの攻撃バーに相当する。  投球のリリース直前なので腕の旋回を短時間に行うことが効果的である。 腕旋回を短時間で行うにはコツがある。 可動範囲を大きくするために肘を高く したままの姿勢でリリース直前まで腕の旋回開始を我慢することが大切である。 ヌンチャクのようにインパクトの直前で肘を下げて(肘で下方に引っ張る ように)旋回速度を上げる工夫も必要である。 実現するには、タイミングや動作そのものが大きく異なるので、繰り返し訓練で習熟するように努力する ことが大切である

5.配球コントロールができるか?
表2は、C君の練習時の全力投球の計測値である。 計測は手伝ってくれる女子マネージャーが(2年生)手持ちのスピードガンで測ったもので、信頼性が 高いというデータではないが傾向はわかると思う。 もちろん球種は直球である。

C君は、ここまでの状況をよく理解してくれた。 フォームの改善は、選手の自主性に任せた。北島選手の時の方式である。 頭のいい選手には実現性が高い という経験則からである。 ただ、アドバイスとして、考えていることをすべて一度に挑戦するのではなく、1つ1つ実現して、モノにしたら次のテーマに 進むという方式で挑戦するように促した。 C君は、手首のスナップ活用の実現が簡単であると判断、まず、取り組んだようである。 5月中旬、1月経って の球速計測値はなんと練習時の平均球速が132㎞/時になっていた。 わずか、7㎞/時の進歩であったが、C君は手がかりを掴んだようであった。  見た感じ、ピッチャーらしくいい球を投げるようになったと感じた。 C君はハイエルボウに挑戦することになった。 2週間ほどして連絡があった。  「先生、肘を高くして投げるとコントロールが決まりません。」 彼はコントロールには自信があった。 それが定まらないのは大問題である。 肘を高く するということは、長らく習熟してきた投球フォーム自体の大変革で、短時間には実現できないということを痛感した。 あと1月しかない。「肘を意識 して高めに従来方式で投げる。 コントロールを睨みながらすこしずつ高めにしていく。」という方式で行くことになった。
図10は、4月と6月の投球状況の変化の映像である。 6月中旬の状況では、135㎞/時まで成長した。試合まであと1月。 フォームの改善はここまでに なった。 120㎞/時ピッチャーが135㎞/時を投げるようになった。

図10は携帯電話の画像であるが、6月をみると手首を後ろに反らせているようすがわかる。 気のせいか、肘から上がなんとなく「しなっている」気が する。 この「しなり」が大ピッチャーの第一歩に見えたのだった。

6.科学の力(テクノインテリジェンス)はスポーツの力
解析で、ピッチングの並行に行われているボールを前に運ぶ5つ動作が球速を決めることがわかったと思う。 速度ゼロのボールを高速に加速する技術は、 多くの球技スポーツで重要技術である。 テニスやバレーボールのサーブ、アタックなど、基本的には同じ状況である。 5つの並行動作の中で、可動範囲 の大きい「肘の旋回」技術は最も重要技術(テクニック・コツ)である。 210㎞/時を超えるテニスサーブでも最重要技術である。 他の4つの並行動作 も検討してみる価値がある。 バレーボールのドライブサーブでは、胴体移動での加速を得るためサーブ時に後方から全力疾走してジャンプしておこなう。  バックアタックも後方からの疾走を利用する。色々な方面でのそれなりの工夫をして戦っている。
次回は、守備の科学を考えてみる。

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