イタリア・フィレンツェの劇場における管理・運営に関する調査報告(その1)

(2)ベルディ劇場(Teatro Verdi)に関する調査報告2011
■実施日時:2011/04/07 14:00~14:30
■対応者:テアトロ・ベルディ Marco Parri 理事長
■訪問者:伊達知見(NPO法人日本アマチュア音楽家支援協会 代表理事)
■調査項目
1)施設管理に関する考え方
(1) 施設の管理区分について
設備特性による分類、環境条件及び使用状態に応じた管理方法や管理区分を設定
(2) 施設の健全度、予防保全について
常時監視、定期点検及び劣化状態の観察
(3)過去の整備修繕記録の有無
(4)計画的な修繕について
監視、点検結果を整理し、健全度を把握した修繕計画の有無
大規模な修理・補修、設備機器の修理・修繕計画の有無
2)施設管理体制
(1) 事業主体
公営施設、民間施設、その他
(2)スタッフ、人員構成
(3)直営管理と委託管理
3)施設の利用状況
年間開館日数(A)、年間閉館日数、利用日数(B)(リハーサルなど)、年間利用率(B/A)
4)維持管理費
年間に要する点検、維持補修費
5)資金の支援
公的支援の有無
6)施設概要
(1)床面積、敷地面積、
(2)主な施設
客席数 舞台数 照明設備 音響設備
(3)年間稼動率
(4)ホール使用料金
(5)建設年次(いつ建設されましたか)
建設費 主な改築の実績 大規模修繕の実績
■議事摘録
理事長:私はこのトスカーナ・オーケストラ(ORP)と一緒に2回、日本を訪問しました。94年のときは全国14箇所で公演しています。 2000年の訪日では、日本・イタリア記念年でしたので東京公演だけでした。日本のコンサート・ホールにはいい印象を持っています。 ホールのテクノロジーももちろんです。
理事長:トスカーナ・オーケストラは財団法人があって、そこが資金を保有しています。オーケストラとこのベルディ劇場を所有しています。
伊達:この財団には独自の資金で運用しているのですか、それとも外部から資金的な支援を得ているのですか。
理事長 :イタリアではクラッシク音楽やバレーなどの文化活動に対しては国や州、市からの補助金が必ずあります。バランスシートに おいては40%がチケットの売り上げ、残りの60%が公的な部門からの補助金によっています。
伊達:この補助の割合はイタリアの一般的なホールでも同じよう状況ですか?
理事長:一般的なホールの方が公的補助の割合が多いです。チケットの売り上げだけで大体20%から25%になっている。のこりの75%が 公的な補助になっています。もちろん平均ですのでそれぞれのケースによりますけれど。
伊達:イタリアの公的補助の実態は参考になります。このことは、どういう理由からでしょうか? 市民の税金を投入することのコンセンサス がとれていると思いますが、かなり昔からでしょうか、それとも最近のことなのでしょうか、ぜひ聞かせてください。
理事長:公的補助金は劇場の運営とかオーケストラとか図書館に使われますが、イタリアにおいては、政府の補助金はGDPの0.29%しかありません。 フランスとかイギリスとかドイツではもちろんGDPも高いのですが、それの4%から6%を占めているのです。ベルディ劇場はイタリアの唯一の 劇場です。どういうことかといいますと、60%の公的補助金はすべてオーケストラの運営に対して使われます。テアトロの運営資金は スペッターコロからのアフィットとかスポンサーとか、そういうものが資金調達するので完全の分かれている、イタリアでは唯一の劇場です。
伊達:もしフランスなど同じようにGDPの4%に相当にアップする補助金を得たとしたら、まず何に使いますか?
理事長:もし4%に見合う補助金をもらえるのであれば、自分たちというよりは地域全体、つまりトスカーナ・オーケストラは90%が 地元トスカーナ州で活動しています。もちろん海外公演にも行きますが、ただカンパーニア州(ナポリのある州)などでは州のオーケストラを もっていません。こうした州の音楽を発展させるために使うことが先決と思います。2つ目にもし自分たちのために使うとしたら、テアトロ・ ベルディとして音楽家を増やしたり、演目を増やしたり、あとクオリティー面でもソリスタをもっと呼んだり、海外公演なども積極的に増やし たりするのに使いたいと思います。
伊達:日本の音楽ホールの歴史は浅いのです。テアトロ・ベルディは150年以上の歴史を持っています。建物は原価償却しているでしょう。 日本の場合は建物の償還金と経営の両方のバブルパンチ。これと比べると違いが大きすぎています。一方、テアトロ・べルディは原価償却も 終わってそういうものに(償還金支出など)、おカネをかける必要がなく、しかも公的補助金を受けている。運営(環境)に格段の差があります。 こうした中で、日本のホールも20年から30年あまりを経過しますと、大規模な修繕も必要になってきます。テアトロ・ベルディは大規模修繕計画 をもっていますか。資金調達の違いが大きいのですが・・・・。150年の歴史をもつテアトロとしては・・・・
理事長:少なくとも150年です。このホールは1600年からの歴史を持っています。
伊達:修繕などに要するコストの全体事業費の割合を教えてください。また大規模修繕計画をもっていますか?
理事長:1998年に財団がこのテアトロを買いました。そのときは特別な保守が必要でした。このため国の公的文化財の修復(保守)に関する コンペティションに応募して、200万ユーロ(約2億4千万円 / 1ユーロ:120円)をかけて大規模修繕を実施しました。2000年から6年をかけて 特別修繕を実施しました。内装、舞台、座席、テクニカル面でも音響室を整備しました。また通常のメンテナンスとしては年間5万から7万ユーロ (約600~850万円)をあてました。
伊達:一昨年の1月に、マッシモ・ラニエーリのコンサートが開催されたときに、私はこのテアトロを訪れました。すばらしいコンサートでしたが、 とても素敵な座席だと思っていました。たいへんいいホールだと思いました。
理事長:座席はポルトロナ・フラウという会社と提携してスポンサーということで協力してもらって改装しました。
伊達:ところで、1966年のアルノ川洪水がありましたが、これに対する安全対策を講じたとインターネットの資料でみましたが、具体的には どのような対策をとられたのですか?お聞かせください。
理事長:そうです1966年に4~6メートルの洪水がありました。このときは1ヶ月後に事業再開ができました。1985年から1988年にかけて法に 基づいて大々的に改築しました。その10年後に、この財団が買い取ることになりました。財団所有に移ったその時点では完全に規格を満たして いました。例えば、ボックス席の扉がじゃまなのでカーテンに変更しています。煙センサーの設置、座席数2800を2500に改造しています。 そのことで内側に非常階段、非常出口を設置しました。さらに消火器の交換など6ヶ月毎に定期点検を実施しています。1950年代はひとつの テアトロに2500席とか、たくさん客をいれていましたが、このことは規格に反していまして、保安上はよくないことだったので現在の規定は 1539席ですが、側面のボックス席にもっと余裕をもたせ1460~1470席にしています。
伊達:きちんとした補修計画を持っておられて順調に改善しているように思えます。今後の問題ですが、さらなる改善、健全化に向けた、 大規模な修繕計画を現在もっていますか?
理事長:まず優先的に外観の修繕計画があります。とくにビアラバ通りとビアデリシテ通り側の外観の修繕計画があります。この夏の整備に向けて 現在資金調達をしているとこです。とくに50箇所の窓を交換する計画です。窓を交換することで空調の節約が出来ます。
伊達:つぎの質問に移ります。このテアトロを実際に管理しているところはどこですか?自前のスタッフか、それとも他に外部の専門のところに 委託しているのですか?どちらでしょういか。
理事長 :法律で外部の専門機関に委託しなければいけない部門があります。例えば、電気配線関係、空調、安全などです。また規格に適合した 技術者であるかも絶えず確認しています。あとは消火器のメンテナンスとかを、それぞれの専門機関(家)に委託しています。内部ではそのような エキスパート・スタッフはもっていません。すべて外部に委託するかたちとになっています。
伊達:音響とか照明も同じように外部委託していますか?自前のスタッフで対応しているのか、それとも外部委託にスタッフなのでしょうか。
理事長:音響はポルトナール・フラウが研究しており、ここに専門家として委託しています。外部といえばそうですが、スポンサーがやっています。 さきほどの客席と同じように取り付けも実施しています。ここに全部一括して委託しています。フィエゾロの会社です。
伊達:先ほどの大規模修繕のことで聞き忘れました。大規模修繕の中で、建物と機械・電気設備関係を分けた計画になっていますか?つまりとくに メンテナンスをしっかりやることによって、長寿命化が可能とされています。このような考え方の計画になっていますか?機電設備は定期点検の中で 事前に部品交換することによって、長寿命化が図れるといわれます。こうした考え方が日本では浸透しています。イタリアではどうですか?
理事長:音響と照明は外部機材搬入が多いです。劇場では最低限のベース的な設備しか備えていません。例えば会議用のマイクなどのように必要 最小限の設備しかありません。その他にスクリーン、映写機は備えていますので映画上映は可能ですが、最小限の設備だけです。 舞台の照明に関しては、オーケストラは舞台技術者がこのような照明などのメンテナンスを行います。舞台の清掃とかはオケの担当者が行います。
伊達:あと3つ質問させてください。まず、ここの年間利用率は何%ですか?
理事長:年間180日~190日です。80日から90日がオーケストラの練習用に使用されます。全体の65%になります。
伊達:オケの年間練習日はどのように考えますか?
理事長:オケの練習日が多いのは、ここが本拠地だからです。それ以外でも演目毎に舞台仕込み、片付けに2,3日必要です。年間10日間は会議のため に使用されます。イタリアでは6月から9月は使用しません。クローズするホールがほとんどです。この180日という中身は10月から5月の7ヶ月間 に集中して使用することになります。6月から9月の夏シーズンは5,6日間開催するかどうかです。だいたい12月から2月の期間は、毎日休みなしで 働きます。5月になると10回くらい開催になります。6月以降はテアトロの中で演奏会をやることはほとんどありません。夏は野外劇場で開催する ことがほとんどです。このトスカーナ・オーケストラも野外演奏がほとんどです。例えば、このスケジュール表をご覧いただければわかるでしょう。 5回しか開催予定がありません。つぎは10月下旬頃から始まりますね。この後は毎日あって、1月はもう休みはありません。ここの4月頃まで 忙しいです。5月になって終わりということになります。年間スケジュールはこのような感じです。フィレンツェのような観光都市なのでこのような スケジュールになりますが、例えばルッカとかピサなどように小さな都市では5月から休止になります。小さい都市では野外で演奏会などを開催します。
伊達:最後の質問です。大変有意義な時間をすごさせて頂きありがとうございました。たくさんの有益な話でした。私たち日本人はヨーロッパの 音楽(ホール)を見本にして建設してきました。ここの劇場はオーケストラの演目を扱う格の高い劇場であると思っていましたが、1960年代70年代 80年代などに見られるように、いろいろなジャンルの音楽を扱い、多くのアーチストや音楽を発信して、もちろんオペラもオペレッタも上演して 来ました。ほんとうにいろいろなジャンルの演目を扱ってきています。不思議におもいますが、これだけ格式のある劇場はオペラやオーケストラだけ しか上演していないかと思っておりましたが、これは経営のためか、それとも求めるオーディエンス、お客様のためなのかを伺いたい。あるいは この劇場がもっている格式を乗り越えてやろうとしているのか、この辺のお考えを伺いたい。我々はもう少し演目を絞っているのかと思っており ましたが、この劇場の対応は大変参考になります。
理事長:経営的は要因もありますが、歴史的な要因もあります。テアトロ・ベルディは150年の歴史をもっておりますが、最初はもちろんオペラだけ から始まりました。それからジャンルをどんどん変えていって、ボクシング、サーカスもやっていました。1930年以降からジャンルを広げていき ました。それは理由があります。このテアトロ・ベルディはプライベートのホールですので、いろんなジャンルを扱って資金を得る必要がありました。 これに対してペルゴラ劇場(国立)とかコムナーレ(市立)などでは、限定したジャンルしかやらないということです。 最後に、3年前に発行したテアトロ・ベルディの本を差し上げます。この本の写真をみるだけでも150年の歴史がわかると思います。
伊達:最後に、演目も大事だが、その器を長く維持することも大事だと思いました。コンサートホールの歴史の浅い日本に何かアドバイスをほしい のですが・・・。
理事長:以前来日したときに、歴史は浅いということはわかりますが、日本のホールは非常に設備が整っていて、音響も非常にいいです。よく オーガナイズされていて良い印象をもっています。もとろんたくさんのジャンルを扱うことは非常に大切なことと思います。やはり限られたジャンル では制限してしまうことになります。あとあえて言うならば、中で働く人々、舞台やいろんなセクションで働く人々のモチベーションを高く持つこと、 情熱を持って働くことが大事です。そうすることによって、自分の仕事にたいして注意を払って進めることができます。また内面的な繊細さが必要 ですし、外的な環境でいいますと、劇場内にゴミが落ちているだけで残念ということになってしまいます。こうした環境をきちんと清潔に保つこと、 こうしたこともモチベーションの維持向上になるものです。ありふれたことですが、こうしたことが大変重要なことと思います。
伊達:調査のために時間割いてくださいまして、ほんとうにありがとうございます。日本に帰ってから、手紙をお送りすることがあると思いますが、 そのときはよろしくお願いします。
理事長:OK。トスカーナ・オーケストラの記念CDを差し上げます。参考になれば幸いです。メールでも結構です。イタリア語でなく英語でいいですよ。
                                   以上

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