フィレンツェの劇場における危機管理に関する調査報告2016

   ■訪問先 TEATRO DEL MAGGIO MUSICALE FIORENTINO
           (フィレンツェ市立歌劇場)
   ■対応者 Simone Sgobbi KSPP :
     Responsabile Servizio Prevenzione e Protezione  防災対策部長
   ■訪問日 2016年11月24日
   ■訪問者 伊達知見(NPO法人日本アマチュア音楽家支援協会 代表理事)

1)劇場の防災に関する考え方
(1)施設面
・法に基づき、防災対策を行っている。
・歴史的な建造物ではないので、2008年のプロジェクトの段階から耐震に考慮している。
・2011年11月にフィレンツェで震度3の地震が起きた。これが最初の対応であった。
・地震、火災、河川などに関して、3パターンのシミュレーション(公演中、公演なし、夜間)のドキュメントを作成してそれぞれの対応を図っている。
(2)地震発生時の対応(公演中)
・公演の中断を指揮者が判断することはない。防災対策担当部長、コーディネーター、消防当局が相談して決める。
・イタリアでは国の防災担当局から地震速報を出すシステムはない。通常、地震の発生通知は1時間以上後になる。
・地震が発生した時は必要に応じてこちらの方から当局に問い合わせることになる。この問い合わせの義務はないそうだ。
・高層複合ビルの中にある日本のホールの場合、超高層ビルとして耐震設計されているので、地震が発生したことだけでは避難しないところが多い。
・イタリアの場合、とにかく避難することになっている。避難先は近くの公園などに決まっている。

2)研修、訓練の実施
・イタリアでは年に1回、避難訓練を実施している。
・研修はそれぞれの役割によって全てのスタッフが受けている。防災に関しては法で定められており、防災担当のスタッフ40人全員が研修を受けている。
・救命救急(AED)に関しては初期対応の訓練を実施している。

3)公演中の医師の待機
全ての公演には医師が待機しており、事故、病気、さらにはアーティストの精神的なことに対しても対応することになる。

4)テロ対策
・施設は全体計画があって、40%の施設がまだ未完成であることからも、十分な警備が出来ない。
・テロ対策については、現在駅や主要施設には軍が待機しているので、劇場も守られていると考えている。したがって劇場としての具体的なテロ対策はとっていない。 今のところリスク管理の対象としていない。
・警察当局との連携は具体には言えないが、情報共有化を図っている。昨年のパリのバタクラン劇場の事件を受けて警備員(警備会社)の人数を強化することもある。
・大きな荷物は預けてもらい客席には入れさせないように配慮している。怪しい荷物は預かる。
・2009年に内務省ではセキュリティの訓練を実施したが、テアトロのリスクは低いと考えている。

5)総括と今後の課題
日本ではマニュアルをスタッフ全員に配布しているが、イタリアでは文化的な違いがあって難しい。安全は防災担当だけが担っていることとして、自らの業務としての 認識が不足しているということだ。安全は皆で意識して向上を図るべきと考えている。スタッフがそれぞれ自覚を持って対応してもらえる防災意識の改革が課題だ。

■所見 安全対策に関してはTeatro Verdiと基本的には変わらない。河川による被害想定をしているところが違いといえる。この劇場はアルノ川右岸に近く、ホール1階部分 と舞台は構造上、半地下に位置する。しかも、舞台下の奈落、リハーサル室、練習室などの施設、設備が地下にある。もし洪水が発生すれば、建物の開口部の各所には 防水扉の設置が必要になる。アルノ川が氾濫して市内に大きな被害をもたらした災害から今年で50年を迎えるという。今後の対応を注視したい。
地震が発生したときの対応は、自ら当局に問い合わせるというのは意外だった。これでは公演中の待ったなしの対応には間に合わない。公的機関を含めた関係者と 相談し合う余裕はほとんどないはずだ。私が勤務していた施設では「震度4までは指揮者の判断」と説明したが、バックヤードではそれぞれの役割が同時進行しており、 「指揮者と観客の動向を注視」(もちろん施設や設備の異常も注視)している段階だと説明するべきだった。
地震が日常化している日本の地震情報の発報システムとの違いが対応策の違いにでてきている。テロ対策に関しては軍が街中の主要施設を警備しているので、地域 あるいは街全体としての対応策があった上で、劇場をどうするかを考えるところが違う。国としてのセキュリティーのレベルが異なっているところは見逃してはいけない 点だろう。こうした中で、劇場として特別な対策はないが、当局と連絡を密にしつつ、日常的に荷物の取り扱いや警備の強化を図るころは共通の対応策として、 日本でも引き続き重要な対応策となるだろう。
最後に防災対策部長は、安全に関しては担当者任せではなく皆が自ら意識してスキルアップを図る必要があるという意味のことを言ったのではないかと思う。 それがイタリアの文化になじまないといって、今後の課題として話してくれたことが印象的だった。
安全・安心の目標は、危機に晒されたときに「生き残る」こと。そのための危機を回避して、予防して、低減して、他に移転すること。さらに組織の管理者はその組織 を継続させる必要がある。これは共通の文化であってほしいものだ。  以上

                                  目次に戻る