テーマB-01 新幹線
(スラブ構造用材料の貢献)
関連データベースへアクセス
  著者:     NPOインテリジェンス研究所 理事 河野 通之 私のプロファイル
  インタビューによる情報提供: 東工大名誉教授 中原綱光氏
    元三菱油化(株)技術開発研究所 森沢隆男氏

1970年頃からポリプロピレンの自動車への応用促進活動が本格化し、私は、四日市から関東、東海地域に、多い時は 年間200日も出張した。だから私は東海道新幹線の上客だったといえよう。当時の新幹線の速度(時速200km程度)が 私に快適な想像の空間を提供してくれた。特に、春の淡い色彩の景色が好きで、居眠りなどもったいなくてできなかった。 景色が次々移り変わることでアイディアがどんどん湧き出てきた。考えごとをするには、音がうるさい気がして電車から 音波を出して防音壁に反射させて、音を打ち消せばどうだろう、などと思ったこともあった。
最近のことだが、大学のテニス部の先輩でトライボロジー(摩擦、摩耗、潤滑)の権威中原綱光東工大名誉教授に、 『新幹線を走らせることを可能にした基本技術は何?』と質問したら、『大きな柱は3つある』と明解に次の答えをいただいた。
①耐久性ベアリングの開発成功
当時の技術で作られた製品では、東京から大阪間の往復でだめになる。これを可能にしたのは、不純物をなくする真空溶解技術 だった。
②パンタグラフの摩耗対策
架線の張り方をジグザグにして、パンタグラフを均一に使うように工夫したことが大きい。勿論、材質などの改良もあったが。
③ロングレールの開発
つなぎ目なしのレールを開発した。レールを熱膨張・収縮させないようにコンクリート製の床にコンクリート製枕木にその間隔で強固 に固定し、レールの継ぎ目を溶接した。このつなぎ目なしレールが、車輪の寿命を伸ばしレールのつなぎ目による音を激減させた。
これらの研究、開発については、詳細にリポートされているのでこれ以上は深く入らないこととしたい。

その当時四日市の、当社別分野研究所の側を歩いていると、道路沿いに大きな弁当箱状の長方型枠に何か 流し込んでいる。見たところ自分らの取り扱う熱可塑性樹脂(所謂プラスチック)とは異なる、熱硬化型樹脂 (エポキシ/ウレタン樹脂などが代表例、反応性樹脂)のようであった。旧知の担当者に何をしているかと質問 したら、次期新幹線軌道用の試験という。 当時はそれほど関心が無くそれきりにとなった。大分、後になって 東北新幹線に乗車した時、東海道新幹線とは明らに違う、滑るような走りと、騒音の少なさを感じた。 「お、あれだ!」と例の試験施工を想いだした。

今回この開発に携わった元三菱油化㈱技術開発研究所 森沢隆男氏に話を聞くことができた。 当時、鉄道総研と共同開発したのは三菱油化㈱、他1社(樹脂メーカー)であった。現在は三菱樹脂グループ の日東化工㈱が取り扱っている。
『第一世代の東海道新幹線は軌道のメインテナンスに問題を抱えていた。整備で砂利(バラスト)を積んでは、 走行で崩す方式の、バラスト軌道であったからだ。当時機械化も進んではいたが、なにせ軌道延長が長大で ある。何十工区に分割しても夜毎夜毎のメインテナンスが必ず要る。それも多数の徹夜野外の整備要員が要る。 何万人もの人数だ。とてもだが集まらない。一晩に大勢の人数が必要となる。更に整備新幹線では将来これの 幾層倍の人間が要る!恐ろしいことだ。しかも軌道のメインテナンスは列車の運行していない夜間の6時間以下の 間に施工のほかにその準備、撤収作業を確実に完了しなければならない。それはなかなか難しいことだ。 その為、第2世代の新幹線はメンテナンスフリーのスラブ軌道を極力採用することになった。鉄道技研の指導の 下各種部材、材料の開発が一斉に始まった。構造体(高架橋、トンネル等)から導いた「突起物」を不動点に利用、 スラブができるだけ動かないように固定させること、寒冷地対応の為、耐熱耐寒試験などマイナス40℃からプラス60℃ の、厳しい環境温度でも耐え得ること、同時に車両の振動などを吸収すること。以上が開発の目的だった。

勿論メインテナンスが効率よく出来ることが基本条件だ。エポキシ、ポリウレタン系などの材料が主に検討された。 「事前試験を充分したとはいえ、実線での新大阪/西明石間の実線実車試験に立ち会った時には、さすがに緊張 した」とのこと。』以上森沢氏が語ってくれた。 大きな問題もなく試験を無事終了した時の関係者の喜びは、如何ほどだったかと想像する。 それ以降、東海道新幹線 山陽新幹線(岡山以西)、宮崎リニア実験線(山梨実験線の前々モデル)東北/上越 新幹線などに採用されていった。弾丸列車計画時点から国家プロジェクトで行っても容易に出来るものではないこと は明らかであるが、部分的に見ただけでも、緻密な計画、と基本を抑えた上で、繰り返し試験を行い、確証後さらに 実証する。いづれにしても、運行を続けながら安全に気を配り、運行時刻を守り、顧客の満足度を満たしながら同時に 経営上の課題などクリアしていかないといけない。

近年のさまざまな災害特に、瞬時に対応策が打たれること特に阪神淡路震災、東日本大震災(東北新幹線開業 直前の先行災害:宮城沖地震も含めて)なんとか耐え、比較的短い期間で復旧させたこと、頼もしい限りだ。
この縦に長く厳しい環境の中を走り続けることが可能な新幹線は通信、制御、電力、勿論車両など各個別、 軌道管理システムなどの絶え間ない改善など総合力が必要だ。また、国内でも飛行機などとも競争が必要だし、 海外との競争も勝ち残っていかねばならない。いづれにしても日本が世界にほこれるシステムだ。次期のリニア なども開発されていて今後とも世界に貢献し続けることは間違いない。

ページのトップに戻る