テーマA-04 『土壌中の有機化合物の微生物浄化』 関連データベースへアクセス
  著者:     田村 紀義氏
     PaGE Science (農工大バイオベンチャーCEO)
     元三菱化学(含三菱油化)勤務
私のプロファイル

土壌浄化において微生物浄化(バイオレメディエーション)が有用、有効であることについて簡単に纏めてみることにします。 土壌表面近くでは好気性微生物が活発に活動することが見られます。代表的な対象化合物は芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン等)、シアン等となります。 土壌中数メートル下では粘性が低く、水より比重が重い有機化合物が土壌深く徐々に浸透し地下水に混入するため嫌気性微生物が活動の主役になります。 ただ、嫌気性微生物は育てる(培養)が難しいのが難点です。
代表的な対象化合物は塩素化炭化水素(テトラクロロエテン:PCE、トリクロロエテン:TCE、ジクロロエテン:ジクロエテン:DCE、BHC、PCB等)となります。 これらの化合物はかつてドライクリーニング、精密機器の洗浄に多用されていました。  しかし、健康障害、発がん性等の問題が多発し、 現在は使用が禁止されていますが、土壌中には現在も分解されないまま残留しています。土壌浄化にはいくつかの方法があります。(図1)

【物理的処理法】
 地下水くみ上げ、土壌入れ替え等大規模な処置のために処理コストが高額になります。
【化学酸化法】
 過酸化水素等の酸化剤を注入する。分解能は高いが、局地的にしか投与できないので一時的な処置になることが多い。
【生物的処理法】
 微生物を増殖させることで、徐々に染み出してくる汚染物質を長期的に浄化できる。土地、工場等を現状維持したまま処置できるのが特徴である。  高性能な微生物(場合によっては組み換え微生物)には環境関連の法規制があります。
実際に土壌浄化の必要がある例をあげてみます。(図2)

アメリカ国内基地、フィリピン・クラーク基地、豊洲(東京ガス工場跡地;築地市場移転先)、船橋(日本建鐵工場跡地;現在所有者三菱電機)、 返還される予定の沖縄米軍基地、クリーニング店跡地等があります。上記例に留まらず日本のみでなく全世界に数多くあることは間違いありません。

以下に有機塩素化合物を中心に有機化合物のバイオレメディエーションについて述べます。
1.揮発性有機塩素化合物のバイオレメディエーション
微生物の働きで存在する(供給される)水素との反応により塩素分子(Cl)が一個づつ水素に置換(脱塩素化;還元)されてゆきます。(図3)

PETやTCEの脱塩素化(分解)は様々な微生物が行うことができますが、DCEで分解が停止してしまうと、毒性の高いDCEやVCの蓄積につながってしまいます。 DCEからVC(塩化ビニル)、エテン(エチレン)までの脱塩素化ができるのは一部のDehalococcoides属微生物に限定されます。 完全な脱塩素化(分解)には複数のDehalococcoides属微生物の共役が不可欠です。また、Dehalococcoides属微生物の順調な生育には他種の微生物が 協調的に存在することが必要です。単離された有用なDehalococcoides属微生物の種類は多くなく限定されています。(図4)

2.バイオレメディエーションのKEYポイント
 嫌気性雰囲気の中で人工培養が難しい脱塩素化反応速度が速い高性能なDehalococcoides属微生物の発見更には天然型よりも高性能な Dehalococcoides属微生物の創出には組み換え技術等の先進的なバイオ技術、種々のノウハウが必要となります。 Dehalococcoides属微生物単独では完全脱塩素化が不可能なことは既に述べた通りです。 Dehalococcoidesといろいろな微生物が共存(コンソーシアと言います)が必須です。現在入手したDehalococcoides属微生物群(コンソーシア)を用いた 実験室レベルの実験で確認されたデータを例示します。(図5,6,7,8)


  また、もう一つのKEYポイントは協調する微生物群の発見、創出です。 我々はこの研究も進めており、着実な成果が得られてきております。 しかしながら現在環境関連の法規制があり、即実用化することは困難な状況にあります。 現状では土壌浄化の対象となっている土地かその周辺から高性能なDehalococcoides属微生物を見つけ出し、大量培養し、これを対象の土地の土壌に 注入することに限定されています。
3.その他有機化合物のバイオレメディエーション
 シアン(CN)、ベンゼン、トルエン等を分解する微生物は好気性雰囲気の中で活躍します。これらの土壌浄化についても研究開発を開始しており、 近い将来公表できる成果が得られつつあります。
4.沖縄県における返還基地の土壌浄化プロジェクト
 近い将来普天間基地を筆頭に数多くの米軍基地が返還される予定であることはご承知の通りです。アメリカ国内の基地及び フィリピン・クラーク基地では過去に使用された揮発性有機塩素化合物が精密機械の洗浄剤としてさらに有機塩素化合物が 農薬(殺虫剤、殺菌剤等)として大量に使用され、現在も土壌中に残留していること判明しております。
沖縄では返還された基地の土地を元の所有者に返し、有効に利用するためには地下に蓄積されている有毒な揮発性有機塩素化合物を処理 (脱塩素化、無毒化、除去)することが必要となります。沖縄県(沖縄綜合科学研究所)を管理主体として研究者(農工大・養王田教授、PaGE Science社)、 地元関連企業(オーピーバイオファクトリー)、土壌浄化専門企業(アイ・エス・ソリューション)等が参画しプロジェクト『現位置由来微生物コンソーシアを利用する バイオオーグメンテーション法の開発と沖縄県内汚染土壌への利用』を立ち上げました。
貴重なDehalococcoides等の微生物群による土壌微生物の基礎技術が確立されつつあります。(図9,10、11、12、13)



  沖縄県特有の難しい問題も多々ありますが、それそれらを克服し、このプロジェクトの成果が実際に現場で実用化され、過大な基地負担を強いられている 沖縄県の重荷を少しでも軽減できる一助となればと考えております。
5.将来への展望
 沖縄でのプロジェクトの成果を基にとして現地での実証実験、実用化に成功すれば、この技術はBHC(ベンゼンヘキサクロライド; 広範囲の農地に残留している殺虫剤)、PCB(国内倉庫に未処理のまま保管されている絶縁材)、更には経済的要因で放置されたままになっている クリーニング店跡地の揮発性有機塩素化合物等の処理へ応用する道が開けてきます。
残された大きな未解決の問題は法規制により関連技術の使用が限定されていることです。 しかしながら、将来微生物の土壌浄化(バイオレメディエーション) の有効性が確認、認知されれば、法規制が緩和されより広範囲に活用されて、皆様の快適な生活の一助になることを祈っております。

【対  象】
 ・テトラ塩素化エテン(PCE)、トリ塩素化エテン(TEC); 洗浄剤
 ・BHC(α、β、γ); 殺虫剤
 ・PCB; 絶縁材
 ・シアン
 ・ベンゼン・トルエン; 溶剤
【有機塩素化化合物の微生物浄化のポイント】
微生物のコンソーシア(consortium); 各種微生物の共役・協調必須 BIOREMEDIATION
・Biostimulation;栄養剤(水素放出化合物:ポリ乳酸等)注入
・Bioogumentation;栄養剤+微生物注入
PCE →(各種微生物)→TEC
    →(各種微生物)→cis-DCE(二塩素化エテン)
    →(Dehalococcoides)→VC(塩化ビニル)
    →(Dehalococcoides)→E(エテン=エチレン)
【KEYとなる微生物】
嫌気性雰囲気で高性能(人工培養が難しい)なDehalococcoidesの創出

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